残念ながら
残念なことにお腹は減ってしまう。
生きていればお腹は減ってしまう。
「朝はバナナだけにしよう」
そんなちっぽけな反抗とは裏腹にお腹は減ってしまう。
「腹八分にしておこう」
そんな絵空事、香ばしいにおいと綺麗な焼き目の前では無力だ。
「彼の前では少食のレディでいたい」
そんな僅かな願いは彼の
「沢山食べる女性が好きなんだ」という一言で藁で作った家のように吹き飛んでいく。
「どうせ1人だ」
尾崎放哉は言った「咳をしても1人」
1人で食べる食事はいつしか寂しさを帯び、美味しさが薄れる。
「これ美味しいね」
彼女は言う。頼みすぎた料理はそう長くない間に2人の愛のように熱を失っていく。
僕は熱を失った何かを口に詰め込んでいくんだ。
「もっと一緒に美味しい物食べたかった」
君が知らない誰かに奪われた。
さっきまで笑っていたのに。
インターホンに映るのは君ではなく、大勢の記者たち。
残ったのは悲しみと、冷えた料理だけなんだ。