公認心理師えすえむさん

心理と趣味と思うこと

「そうだ旅に出よう。」

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「そうだ旅に出よう。」
 


そう思っても、実際に旅に出る人は少ない。
現実は休みの取れるような仕事でもないし、有給が自由に取れる職場でもない。
決して広くないデスクには目を通していない書類が我が物顔で居座っている。
デリカシーもエチケットも知らない上司は形容のしようもない体臭をまき散らしながらデスクに近づいてくる。
到底通常業務では対応できない仕事を押し付け、上司は感じてもいない申し訳なさだけ顔から滲ませている。
 


ノートパソコンのロック画面には世界の絶景スポットが広がっている。
雑巾を絞るように気力を振り絞りながら起床し、満員電車に揺られ窮屈に出勤をする。
サービス残業は当たり前。社会人の嗜みと称した飲み会に行き、終電を逃す。
干物のような生活の私の眼には、その絶景があまりに非現実的に見える。
 


「そうだ旅に出よう。」

 

夏のボーナスが出た。
彼氏なんて大学時代以来いない。
食に興味なんてないし、愉しみは家に帰った後のスーパードライを飲むくらいだ。
キンキンに冷えているはずの『彼』は唯一私が感じる「ぬくもり」だなんて皮肉なもんだ。
 


「とりあえず3年」

 


そんな言葉を半信半疑で受け入れながら、働き始めてはや6年。
貯金はたんまりある。
 


「そうだ旅に出よう。」

 


私が乗るはずだった飛行機がハイジャックをされたらしい。
緊急着陸した後、乗客は無事に解放され、犯人は逃亡途中に射殺されたらしい。
休日出勤が確定し、旅行をキャンセルしたのだ。
生きていてよかった。
嫌いな仕事が少し嫌いでなくなった。
 
 
「そうだ転職をしよう。」

 


本腰を入れて転職活動を始める。
条件は「残業少なめ」
今日もスーパードライは調子よく冷えている。
 

 


「きっとそれを幸せと呼ぶんだね」